序論:評価は必要だが、十分ではない
私たちは点数やスコアで進捗を測る。評価は外部比較を可能にし、分配や選抜を支える。しかし、評価は「できる/できない」の境界を強調し、学びの動機を外部に寄せやすい。そこで鍵になるのが、学びの内燃機関としての承認だ。
本論:承認がもたらす3つの安定軸
- 安全基地:失敗しても人格の価値は減らないという前提は、探索(試行)の幅を広げる。
- 意味づけ:評価は結果の序列を示すが、承認は過程の意味を回収する。記録は点ではなく軌跡になる。
- 共同体:承認は関係の技術であり、学級・チームの心理的安全性を具体化する。
ここで言う承認は「無条件の称賛」ではない。事実に基づく存在承認と、具体行動のプロセス承認の両輪である。
結論:評価の上に承認を敷く
評価は方向と密度を与えるメーター、承認はエネルギーを与えるタンク。二つを直列ではなく並列に配線する授業・仕事設計が、持続可能な学びを生む。
観察:点数が下がるたびに手が止まる
定期テストの返却直後、何人かがノートを閉じ、次の課題に手をつけない。教室の空気は静かで、視線はバラバラだ。
感情:縮こまる感じと、置いていく罪悪感
私は焦りを感じる。同時に、できた人だけが前に進む設計にしてしまった後ろめたさもある。
ニーズ:つながり・成長・意味
- つながり:誰も孤立しない共同感覚
- 成長:小さな前進を自分のものとして感じる力
- 意味:学びが点ではなく物語として積み上がること
リクエスト:次の一歩を一緒に見つけよう
今週は「できた/できない」を手放し、今日の前進を1つ記録してシェアしてほしい。私は全員の記録に事実ベースのフィードバックを返す。
問題:評価依存で探索が萎縮
点数偏重の教室では、誤答を避ける最適化が走り、試行回数が減る。これは創造・転移の学習目標と衝突する。
目的:探索コストを下げ、失敗の再投資率を上げる
失敗を「損失」ではなく「燃料」に変換し、翌週の着手速度を高める。
目標(施策)
- 週次の前進ログ(小さな達成の見える化)
- ピア・リーディング(互いの過程を読む儀式化)
- 再評価枠(再挑戦を設計に組み込む)
評価:指標の例
- 提出までの平均着手時間の短縮
- 誤答からの再提出率の上昇
- 自己効力感スコア(短縮版尺度)の改善
指標は人を縛らない。指標に人を合わせず、人に指標を合わせる運用が肝心。
物語:点数のない日
雨の月曜、私は配らないことにした。代わりに小さなカードを渡す。「今週の前進を一つ書いてね」。
最初は白紙が多かった。五分後、一人が「質問できた」と書いた。次の人が「エラーを再現できた」と続く。教室は少しだけうるさくなり、私は点ではなく線を見ている自分に気づいた。
テストは明日返す。今日は物語の方を先に。
補遺:実装レシピと参考
実装アイデア(授業・研修向け)
- 前進ログ:毎回5分、カード or スプレッドシート。事実の文で書く(例:「関数を分離した」)。
- ピア・リーディング:2人1組で「良い問い」を1つ返す。是非ではなく次の一歩を促す形式。
- 再評価枠:再提出の締切と評価比率を最初に明記。やり直せる設計を制度として保証。
用語メモ
承認:無条件肯定ではなく、存在の価値を前提とした事実ベースの気づきの共有。